湖・平地・山地と多様に富んだ地形をもつ琵琶湖流域では、一般風の弱い晴天日には、山谷風・湖陸風など成因・規模を異にするいくつかの局地風が発達する。この研究では、これまで明確にされていなかった、琵琶湖流域への若狭湾からの海風の侵入をとりあげ、昭和61・62年の夏季に実施した琵琶湖流域での風の観測結果と既存の気象管署のデータをもとにして、海風の侵入を可能にする条件、海風の侵入に伴う風・気温の変化などについて議論した。まず、昭和61・62年の7月下旬〜9月上旬について、若狭湾沿岸の敦賀と琵琶湖北岸の尾上の風の記録を調べてみると、敦賀では海陸風が、尾上では湖陸風が発達した日は合計41例あった。これら日について尾上の風の日変化を吟味してみると、夕刻には北寄りまたは東寄りが卓越するようになる。これは、それまでの湖風にかわって一般風や若狭湾からの海風が支配的になることを示唆している。そこで、つぎにこの両者を区別するために、上空の風の状態に注目し、その指標として琵琶湖の北東岸にある伊吹山測候所(海抜1377m)の風を調べてみた。その結果、伊吹山測候所の日平均風速約4m/sを境にして、それ以上の日の夕刻には、湖風から一般風へ交代すること、それ以下の日の夕刻には、湖風から海風へ交代することがわかった。海風が侵入すると、尾上の風速は増大するが(湖風の風速は1〜2m/s、海風の風速は3〜4m/s)、気温の変化はあまり顕著ではない。海風の侵入でとくに注目される点は、敦賀で発生した海風が、尾上に到着するのに約4時間もかかることである。両地点の水平距離は約26kmであるので、海風の侵入速度は遅く、海風自身の風速の約半分である。海風の侵入には、両地点の山地(比高500m前後)と海風層の厚さがかかわっていることが示唆される。
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