局地風は、シノブチック・スケールの気圧分布から決まる一般風とは異なり、地形に起因したメソ・スケールの風系である。琵琶湖流域の局地風系像をできるだけ正確に描こうとすれば、この地域が、単に中心部に湖を持つ流域であるというだけでなく、若狭湾・伊勢湾・大阪湾が湾入し、中部山地・紀伊山地・中国山地の間の地峡地帯という、よりスケールの大きい地域特性を無視するわけにはいかない。 この研究では、後者の地形特性に関わる局地風、すなわち、湖陸風が発達する日の夕刻に出現する北寄り風と東寄り風を取り上げ、その成因と特性を明らかにした。得られた結果をまとめると次のようになる。 1.一般風が弱く(海抜1377mにある伊吹山測候所の風速10m/s以下が目安となる)湖陸風が発達する日の夕刻(16時頃-21時頃)、琵琶湖北部流域では、それまでの潮風に代わって、北寄り風(NW-N)、または、東寄り風(E-SE)が吹き始める。北寄り風の出現は、一般風の風向と無関係であるが、南東系の一般風が強まる(伊吹山測候所の風速5m/s以上が大体の目安となる)と東寄り風が出現する。 2.地上風の解析から、北寄り風は若狭湾岸域から進行する海風であると考えられる。その平均的な継続時間は16時から21時の5時間、風速は3.5m/s、水平スケールは60km程度であること、さらに、若狭湾系海風は冷気の移流を伴うことがわかった。 3.地上風および風・気温の鉛直分布の解析から、東寄り風は南東系の一般風が地峡部で変形されたダシ風であると考えられる。1985年8月2-4日の尾上における東寄り風の継続時間は、17時から翌朝7時の14時間、風速は7-11m/s、鉛直スケールは300-500mであった。
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