有糸分裂の際の染色体移動機構を解明することを目的として、移動の原動力を任っている微小管を高輝度暗視野光学顕微鏡と超高感度ビデオカメラを使って動的に映像記録し、溶液中の個々の微小管についてその成長(重合)短縮(脱重合)過程を解析した。その結果、1)見かけの定常状態においては個々の微小管の長さは一定ではなく、成長と短縮をくりかえしていること。2)【Ca^(++)】存在下では短縮相と休止相があり、やはり個々の微小管はこれらの2相間を相互変換していることが明らかになった。3)細胞外に分画された中心体を核として微小管を成長させた場合にも、微小管の動的不安定性が観察された。染色体移動機構の解明にこれらの事〓は深く関係している。 1.微小管結合タンパク質(【MAP_S】)を含くまない精製微小管溶液中には、重合中と脱重合中の微小管が共存していた。この現象は従来の重合反応論では説明不能である。各微小管はこの重合・脱重合の2相間を可逆的に相互変換していた。 2.従来の溶液全体の測定では微小管は【Ca^(++)】存在下で持続的に脱重合されるとされてきたが、映像代により短縮期と休止期があり、【Ca^(++)】濃度の上昇にともなって休止期の時間的存在確率が減り、その結果脱重合速度が速くなっていた。 3.上記の動的不安定性は【MAP_S】を加えることによって抑制され、微小管は定常状態において一定長を保持するようになった。 4.動的不安定性が紡錬体微小管においても見られる現象であるかどうかは、残念ながら我々の暗視野蛍光システムでも観察不能であった。しかし分画した中心体微小管も典形的な動的不安定性を示した。これらの結果を総合すれば、【MAP_S】によって安定化された微小管が何らかのシグナルによって【MAP_S】を不活化し、微小管が脱重相に相転移することにより染色体を中心体の方向に引っぱり、移動させるモデルは大変有力であると考えられる。
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