大腸菌K12株はそのDNAに傷害を受けると、SOS機能と呼ばれる一連の機能を発現してこれらの傷害を除く。このSOS機能の発現は活性化されたRecA蛋白質がSOS遺伝子の発現を調節しているLexAリプレッサーを不活化することによって起るが、この不活化反応には単鎖DNA(SSDNA)とATPが補助因子として要求される。一方RecA蛋白質は正常細胞でDNAの遺伝的組換え反応もおこなうが、この反応の補助因子もSSDNAとATPである。このように、RecA蛋白質は同一の補助因子を用いて性質の全く異なる二つの反応をおこなうが、この事はRecA蛋白-SSDNA-ATP複合体に活性の異なる二つの形体があることを意味している。そこで、SOS誘導が構成的になったRecA5327蛋白質(野性型RecAのC末端アミノ酸25残基を欠失したもの)と野性型RecA蛋白質の性質を調べ、RecA蛋白質の活性化の機構を、これらの複合体形成過程と機能の関係を解析することで、明らかにすることを試みた。 その結果(1)RecA5327はポリヌクレオチドとの結合の特異性が変化している。またSSDNAに対する親和性が増し、高いリプレッサー切断活性を持つ。(2)RecA5327のSSDNAに対する親和性の高い原因は、SSDNAとの結合速度が速く、かつ形成された複合体の解離速度が遅いためである。(3)野性型RecA蛋白質とSSDNA複合体の解離反応の解析の結果、RecA-SSDNA-ATP複合体には性質の異なる二種類(解離反応の速いものと遅いもの)が存在する。(4)リプレッサー切断活性の高いRecA蛋白質複合体はRecA5327蛋白質とSSDNA複合体にATPが相互作用してできた複合体と、野性型RecA蛋白質-SSDNA複合体にATP-rSが相互作用したものである。(5)一方、RecA蛋白質とATPが相互作用した後にSSDNAに結合してできた複合体はDNA鎖交換反応を効率よくおこなう。野性型蛋白では(4)の複合体は不安定で(5)の複合体は安定に存在する。
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