脊椎動物の視細胞における光受容電位の発生は、光照射に伴う細胞内cGMPレベルの減少と外節膜のcGMP依存性イオンチャンネルとで基本的には説明できるようになった。しかし、同時に、細胞質中の【Ca^(2+)】レベルがcGMPレベルの光感受性調節に重要な役割をもつことも示唆されており、細胞内【Ca^(2+)】とcGMP代謝系との間に介在する調節系の究明が急がれている。一般に、細胞内【Ca^(2+)】の調節系を考えるとき、また【Ca^(2+)】による膜酵素の調節を考えるとき、イノシトールリン脂質の役割は極めて重要である。本研究では、カエル視細胞外節を材料とし、脊椎動物視細胞の光受容膜におけるイノシトールリン脂質代謝系の性質を検討した。特に、triphosphoinositide(TPI)分解酵素、つまり、TPI-phosphodiesterase(TPI-PDE)とTPI-phosphomonaesterase(TPI-PME)の活性を測定し、酵素の性質を検討した。シビレエイ発電器のアセチルコリン受容膜から抽出したDPIキナーゼを用いて合成した【^(32)P】-TPIを基質とし、I【P_3】や無機リン酸はDOWEXイオン交換カラムで分離した。 研究で明らかになった主な点は、(1)カエル視細胞外節部にはラット脳のそれと匹敵する高いTPI-PDE活性(約12nmole/min/mg protein)がみられた。(2)TPI-PDEは【10^(-7)】Mという極めて低濃度の【Ca^(2+)】で活性化された。光受容に伴って起こる外節内の【Ca^(2+)】濃度の変化は【10^(-7)】〜【10^(-9)】Mと考えられ、この範囲の【Ca^(2+)】変動がTPIレベルに反映される可能性が示唆された。TPI-PMEには【Ca^(2+)】の影響はみられなかった。(3)GTPおよびGDPを透析によって除いた外節標品を用いると、【10^(-7)】M共存下、非水解性GTPアナログによってTPI-PDEの活性化がみられた。また、TPI-PME活性にはこの効果は認められなかった。
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