研究概要 |
昭和61年4月に研究代表者は京都府立医科大学より愛知医科大学に移籍した。これに伴い、新任校の計算機システムの運用に習熟する要が生じ、また前任校で使用していた計算機上で開発したプログラム群を新システム上に移植する作業も生じた。特にグラフィックス関係は全面的な書き直しが必要となった。年度前半はこれらの作業に精力を傾注した。 前年度に引き続き、蛋白質(牛膵臓トリプシン・インヒビタ:BPTI)の立体構造をfixed bond length,bond angleの拘束のもとで表現する努力を継続した(構造のrefinement)。今年度は特に、energy計算(ECEPP【II】)に基づく側鎖原子間の衝突の排除に努力した。これは、native構造のエネルギーが以降の諸計算の対照となる重要なものなので、省くことのできない重要なステップである。側鎖原子間に衝突のない、ほぼ満足できる構造を得ることに成功した。 次のステップとして、天然アミノ酸配列に対して、random shufflingを行い、この配列に対してエネルギー極小構造の探索を行った。試みたアミノ酸配列は次の2種類である:親水性のアミノ酸同士,疎水性アミノ酸同士のshufflingを行ったもの、疎水性のアミノ酸の50%を親水性のアミノ酸と入れ換えたもの。これら2種類のアミノ酸配列を有する蛋白質のエネルギー極小構造を、天然配列の極小構造の近傍で探索した結果、天然構造のエネルギーよりはるかに大きなエネルギーを有する構造を得ることができた。天然構造より低いエネルギーを有する構造が無いことを積極的に示すことはできないが、エネルギー計算プログラムが、少なくともここで試みた程度の大きな配列変化に対しては妥当性のある結果を与えることを確認できた。エネルギー計算プログラムの信頼性を検討するには、より小さな配列変化に対する極小エネルギーの変動を調べる必要がある。
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