本研究では大気のアルゴン同位体比に近い岩石試料中のアルゴン同位体比を精密に測定することが最も重要であった。そのための気体用質量分析計を製作するにあたり、初年度に質量分析計のイオン軌道に関する基礎的な考察を行い、イオン経路を計質機でシミュレーションするためのプログラムを開発した。このプログラムは任意の磁石の形、大きさ、イオン源の位置などからイオンビームの軌道を自動的に作図してくれるもので質量分析計の設計に大変有効である。初年度の終わり頃にようやく部品類がそろい、イオンソース、コレクターの組み入れと真空テスト、ガス抽出炉、ガス精製系などに対する基礎データとイオンビームの安定性などの調整を行った。大気の【^(40)Ar】/【^(36)Ar】比(三295.5)がマルチプライアーにかける電圧に大きく影響されることも知れた。これと並行して質量分析計のデータをAD変換して直接コンピュータに取り込み年代を決定するという手法を試みた。質量分析計の感度は安定しており、質量差別効果も大きいものの安定していたので、年代の知れている数万年の岩石試料2個と数100万年の岩石試料3個について年代測定を行った。質量差別効果の変動を考慮して誤差をつけた年代は、韓国の済州島のトラカイトで0.056±0.005m.y.であり、アンデスのアンデザイトで0.028±0.017m.y.と10万年より若い火成岩の年代を決定することができた。これらの値はホットブランクの変動も考慮すると他大学での測定結果と誤差範囲で良く一致している。数100万年の岩石試料については通常の大気混入率の低い試料については大変精度よく年代測定できる。
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