微少量鉱物の熱測定、特に比熱の測定を目的とするため、示差走査熱量計(DSC)の内、測定感度が高くベースライン安定性の良い熱流束形の機種として理学電機製DSC-8230型を選定した。そのデータ処理系としては処理能力が高く最も新しい機種の日本電気製パーソナルコンピュータPC-9801-VM2を選んだ、理学電機と協力して、比熱測定用プログラムの改良を行い、DSC-8230に付属のマイクロコンピュータに一度収録されたデータをPC-9801VM2に移し直ちに比熱の計算を行いプリンタ、プロッタに出力させることができるようになった。これにより1回の測定(短時間の場合は数分以内)のデータ計算・表示が測定終了後3分以内に終えることができ、測定全体の迅速化を図ることができた。またこのことによって、1回の測定では統計的なばらつきのある熱量に関して、多数回の測定結果の統計処理が容易にない、高精度のデータが得られるようになった。 まず装置の較正を高純度アルミナを用いて行い、約20mgの【Mg_2】Si【O_4】(フォルステライト)を試料として比熱を測定し、既知のデータと約3%以内で一致することを確めた。 本研究の目的である高圧鉱物の比熱測定を行うため、【Mg_4】【Si_4】【O_(12)】-【Mg_3】【Al_2】【Si_3】【O_(12)】系ザクロ石を東大物性研究所の協力の下で高温高圧下で合成した。旅費・消耗品の一部はこの合成実験に当てられた。この系の端成分【Mg_3】【Al_2】【Si_3】【O_(12)】(パイロープ)の比熱を約20mgの試料を使い測定したところ、Watanabe(1982)の測定値とよく一致した。また58%【Mg_4】【Si_4】【O_(12)】成分を含むザクロ石の比熱は今回初めて測定されたものであるが、パイロープとほぼ等しい値を与えた。この系のザクロ石はマントル遷移層の主要構成鉱物の1つであり、その比熱データは相関係や遷移層の熱的状態を推定する上で重要である。
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