〈目的〉貝塚からは古代人の食事に関する直接的な情報を内包する糞石、あるいは土器、石器付着物が出土している。これらの遺物から残存している脂肪酸を非破壊的に抽出し、その脂肪酸組成を基に動植物を同定して、先史時代人の全般的な食糧組成を直接復原しようとするのが本研究の目的である。 〈研究結果〉初年度は、糞石等を材料にした脂肪酸分析の抽出法・分析法の確立および分析に最適な材料の選定を目的に次の分析を行った。 1.分析法:抽出液はクロロホルム・メタノール混液(2:1)を用い、薄層クロマトグラフィーで分画精製が必要である。分析試料は糞石の場合には5g以上、土器片は5cm角以上、焼石は50g以上の大きさがガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析に必要であることがわかった。 2.(1)糞石:宮城県里浜貝塚出土資料35点の他参考資料として曽谷・上山田・田柄等の糞石を分析し、陸棲哺乳類。水産動物、植物など多種の脂肪酸を検出し、またその脂肪酸組成が糞石ごとにかなり差があることがわかった。 (2)土器付着物:長野県曽利遺跡・埼玉県寿能遺跡・多摩ニュータウン等出土の土器片で内面に炭化物の付着しているものを分析対象したところ、どんぐり類の堅果物の他、魚・陸棲哺乳類などが混在する脂肪酸組成を示した。 (3)焼石:先土器時代の礫群にはタール状の付着物が発見されるが、多摩ニュータウンや小金井市野川北遺跡の焼石からは、哺乳類のほか植物性の脂肪酸も検出された。 (4)現生動植物の脂肪酸組成のスタンダード作成:考古遺物から抽出される脂肪酸の動植物の同定のため、種名、産地等既知標本を用いて、水産動物40種、堅果種子30種等の脂肪酸組成を調査した。
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