高電圧電界イオン顕微鏡(HV-F1M)の基本設計と試作を完了し、顕微鏡筒内はターボ分子ポンプによる真空排気とベークアウトによって【10^(-7)】Paの超高真空ふん囲気が達成された。表面の研究、特に原子オーダの解析にあたっては、コンタミネーション防止のために常時【10^(-7)】Pa程度の真空度が必要であるが、本研究試作のHV-F1Mはその必要条件を満足している。イメージガスであるヘリウム導入用のバリアブル・リークバルブとけい光スクリーンを取付け、現有装置である20kV級F1Mの液体窒素冷却コールド・フィンガーを転用して、タングステン線(線径60μm)及びボロン繊維(線径100μm)のF1M観察を行った。ヘリウムイオン像は現有のF1Mから得られた像より鮮明で、観察中の像の変化も生じなかったが、このことは超高真空排気によって残留ガスの影響を極少にしたことに起因する。また、現在まで報告例のないボロン繊維のコア構造のF1M観察に成功し、コア部がタングステンボライド【W_2】【B_5】に変化していることを明らかにした。この時、印加電圧は20kV近くなり、現有のF1Mの限界に達した。HV-F1Mでは60kVまでの電圧導入が可能であるので、さらに曲率半径の大きいチップでも観察できるものと思われる。昭和61年度に申請済の高圧導入端子(セラマシール社)のデモ機をテストしたところ、60kVまでの電圧印加はWALLiS高圧発生装置で非常にスムーズに行えることを確認した。ボライドの形成に関する考察として、硬質ボロン薄膜をタングステンの板及びチップにスパッタコーティングし、薄膜の組成をAESで分析するとともに、加熱処理を施したボロン/タングステンチップ界面のボライド形成に関する原子オーダ解析を開始した。ボロン繊維のみならず、グラファイト及びシリコン母材からのF1Mチップの作成及びタングステン丸棒及び薄板からの試料作成にも着手している。
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