交通事故などにより脊髄を損傷すると、脳から四肢への神経情報が伝達されないため、四肢麻痺になると共に、四肢から中枢への神経情報のルートも切断されているので感覚機能も喪失してしまう。本研究では、末梢の神経・筋系を直接、機能的電気刺激(FES)によって制御する場合に、発生される指先の変位、握力などの量を患者本人の肩への皮膚刺激を介して感覚量としてフィードバックさせるシステムの開発をめざしている。本年度は計画の第一年度であるため感覚情報の基本特性を次の3点について明らかにし、設計にそなえた。 (1)機械的振動刺激による感覚情報の伝達特性:十分駆動力のある加振器を用い、肩、首の皮膚への機械的振動刺激を与え、閾値、周波数弁別能などを定量的に求めた。振動音の影響があることと、装置が大形になるため実用化には向かないと結論された。 (2)電気刺激による感覚情報の伝達特性:【◯!1】周波数変化に対して刺激電流振幅の閾値の変動が小さいため、周波数変化に対する振幅の設定は容易である。しかし、刺激する位置による閾値の差があり、多点刺激の時の振幅の設定には注意が必要である。【◯!2】刺激振幅のダイナミックレンジは12〜15dBなので周波数変化、刺激位置変化と組合せるべきである。【◯!3】周波数fとその変化分△fとの比で定義される周波数弁別閾はf≦200Hzでほぼ0.3であった。【◯!4】空間分解能は約40mmであった。【◯!5】その他に、時間分解能、位相差分解能、伝達情報量も求めた。 (3)電気刺激による新しいファントムセンセーション(PS)の与え方:機械振動刺激で報告されているPSを、2個の電極対間で、相補的に振幅が時間と共に増・減する新しい刺激法を考案した。これをさらに2電極の等感覚曲線で補正して刺激すると2電極対の間をスムーズに移動する感覚を発生させることが出来た。この方法を上記の基本的特性と総合したシステムを開発することは次年度の課題である。
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