本研究は、自動車車体用として最近主に利用され始めた高張力鋼製プレス成形部材のような溶接部での板の合い、すなわち板の密着性が悪く、しかも既溶接点への分流電流の存在によるナゲット形成への影響が無視できな実構造物のスポット溶接性を支配する要因を、実験と数値計算を用いたシミュレーション結果とによって解明し、この結果を利用して高張力鋼製実構造物のスポット溶接性を改善する溶接機のあり方を明らかとすることを目的としたものである。 第1年目の昭和60年度は、この研究の第1段階として、40〜60kgf/【mm^2】クラスの高張力鋼を用いた場合の溶接現象、とくにナゲット形成現象と散り発生限界現象とを実験的に検討するとともに、このすきまと分流電流が同時に存在する場合に適用できるナゲット形成シミュレータを開発することにした。また、この実験結果をもとに、溶接性を改善するための溶接機のあり方についても検討を始めた。以下に本年度の研究で明らかとなった主要な結果を列記する。 1)高張力鋼製すきま付部材のナゲット形成に対する板間すきまの影響を減じるためには、既溶接点への分流電流をできるだけ増し、しかも被溶接材表面を研摩して滑らかにすればよい。 2)高張力化する程すきま付部材の溶接性が低下するのは、高張力鋼程板が加圧時にバックリングを起し、この結果として板-板問がリング状に接触し、電流密度が低下するためである。 3)このリング状接触を生じる程度は、被溶接材の代表降伏応力値(【τ_r】+【τ_t】)/2の値が大きい程顕著になる。 4)平板重ね材を用いた場合はスポット溶接のナゲット形成に対して被溶接材の種類による変化はほとんど認められない。適正溶接条件は変るものの、溶接過程は相似となった。
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