本研究は、自動車車体用として近年主に採用され始めている高張力鋼製プレス成形材の抵抗スポット溶接時に見られる溶接部での板の合い、すなわち板の密着性が悪く、しかも既溶接点への分流電流の存在によるナゲット形成への影響が無視できない場合のスポット溶接性を支配する要因を実験と数値計算結果とを利用して、解明しこの結果を利用して高張力鋼製実構造物のスポット溶接性を改善できる溶接機及び溶接システムのあり方を明らかにしようとするものである。 本研究の第2年目となる本年度(昭和61年度)は手持ちの溶接電源の制御回路を改良して電源外部特性を制限はあるもののある程度の範囲で自由に調整できるようにし、この電源外部特性とナゲットの形成現象および溶接可能電流域との関係を検討した。結果として以下に列記するような事項を主に明らかとした。 1)現在自動車工場で主に採用されている単相支流式スポット溶接機に代えて電流脈動の少ない三相直流溶接機を用いた方が0.8mm程度の薄板側では溶接部の温度脈動が低減し、散り発生限界電流値が上昇する。この結果、直流溶接機を用いた方が溶接可能電流域がかなり拡大する。 2)同じ三相直流電源を用いた場合でも、この散り抑制に対しては電源の外部特性を定電流特性から定電力特性へと低垂下度化する程効果が顕著に認められる。 3)上記2)項の効果は室温状態と高温状態での母材強度の変化程度の大きな高張力鋼程顕著に認められる。 4)上記1)〜3)項の結果は、板間にすきまのない平板重ね材の場合のみならず、すきまの大きなすきま付部材の場合にも同様に確められる。
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