ハイブリッド型人工皮膚の開発のための基礎的知見を得るために、マトリックス基材として最適と考えられるコポリ(α-アミノ酸)の分子設計を行い、コポリマー水溶液から凍結真空乾燥法によりシート状スポンジを作製し、脂肪族アルキル鎖の導入あるいは分子間架橋により水に不溶性とした後に、スポンジの含水性および機械的性質の評価を行った。次に、血小板含有血漿をシート状スポンジに含浸させ、フイブリンクロットをつくり、このハイブリッドマトリックス上でラットおよびヒトの皮膚由来の線維芽細胞と上皮細胞の接着、伸展挙動を調べ、また細胞増殖性についても検討した。1日の培養で、細胞は伸長、偏平化し、フィブリンの網目構造がスポンジの内部へも進入していることが確められた。また、フィブリノーゲンにスロンビンを添加して調製したフィブリン上では細胞の増殖は観察されなかったが、血小板含有血漿から調製したフィブリン上では顕著な細胞増殖が観察された。さらに、本研究で採用した材料の組織適合性を検討した。ポリアミノ酸スポンジをラットの背部皮下に移植し、組織学的な変化を観察した結果、コポリ(L-ロイシン-L-リジン)では、浸出反応およびそれに誘発される浸潤細胞反応が強く現れ、スポンジフレームの分解吸収は遅く、4週間後もかなり残存した。これに対し、コポリ(L-グルタミン酸-L-リジン)では、分解吸収は早く、浸出反応はほとんどみられず、浸潤細胞反応は弱いが、異物巨細胞反応が強く現れる。以上の結果から、ポリアミノ酸スポンジの化学構造によって組織反応はかなり異なることが明らかとなった。エチレンオキシドガス滅菌処理したコポリ(L-ロイシン-L-リジン)のスポンジに無菌下で血小板含有血漿を含浸させ、フィブリンクロットを形成させることによりハイブリッド型マトリックスを調製し、これをラット背部皮膚欠損部位に付着させ、人工皮膚としての性能の検討を進めている。
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