昭和60年度の研究経過はほぼ予定どうり進行した。ジアニオンによる不斉合成は順調に進展し、3、4、5、6員環合成で所期の目標を達することができた。具体的には、立体障害の大きなかさ高いリチウムアミドを用いると3員環で99%、5員環で92%の光学収率が達成できた。反応は予想どうり、キラルな2つのメンチル基がコハク酸ジアニオンの片一方の面だけを相乗的に遮蔽するために、高い不斉収率が得られたものと思われる。同様の考察によってフマル酸ジメンチルエステルと各種ジエンとのDiels-Alder反応を試みた。 ジエチルアルミニウムクロリドやエチルアルミニウムジクロリドを用いれば、ほとんどの系で95-99%の不斉収率を達成することができた。 特にシクロペンタジエンを用いると定量的収率で、しかも99%の不斉収率が達成でき、プロスタグランジンの基本骨格合成に非常に有効である。 ω側鎖合成のためのアレニルアニオン法はGrignard反応剤で同様の効果が得られることがわかった。 光学収率はホウ素法に比べて低いが、配位子を種々検討してゆくことによって本法の実用性を高めてゆくことができる。 これらの基本反応の開発、応用と並行してプロスタグランジンのαおよびω側鎖のシクロプロパン誘導体の合成を試みている。 特に、ω側鎖では18、19位のシクロプロパン体の不斉合成をすでに完了し、(S、S)体、及び(R、R)体の合成に成功した。 反応は酒石酸ジエステルのアセタールを用いる不斉シクロプロパン化反応によって成功したものである。 光学収率90%以上、ジアステレオ選択性は100%近い値が得られた。 以上、まとめると、昭和60年度はプロスタグランジンの合成のための不斉合成法の開発で多くの成果を得たが、マロンアルデヒドとの閉環法はまだ成功に到っていない。
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