本研究は、現在の情報化時代を支えている電子写真複写機の感光体に光メモリー機能を賦与して、通常の電子写真複写のように毎回像露光を行うのでなく、一度の像露光で感光体に露光像を記憶させ、その後は露光なしに帯電・現像・転写・定着の静電複写による多数枚複写を目指すものである。 1.まずスイッチング層にCu・TCNQ(テトラシアノキノジメタン)錯体微結晶樹脂分散膜を用い、光導電体層にポリビニルカルバゾール(PVK)・TeNF(テトラニトロフルオレノン)有機光導電体を用いた積層有機感光体について、光メモリー機能発現機構を検討した。その結果、基本的な光メモリー機能発現機構が把握でき、その詳細についてはすでに報告した。 2.Cu・TCNQ錯体を中心に、スイッチング膜の成膜法を検討した結果、新しく加熱Cu基板にTCNQの真空蒸着による固相拡散熱反応によって緻密な錯体薄膜形成が可能であることを見い出し、さらにその上に有機光導電体層を塗布した感光体においても良好な光メモリー効果を確認し、より高感度化の可能性を示唆する結果を得た。またCu・TCNQに代ってAg・TCNQを用いた場合には、正負両帯電において光メモリー効果に示すことが分った。 3.メモリー保持能に関しては、現在のところ室温で約3時間程度で、温度の上昇とともにメモリー能は低下するが、この結果は、1つのメモリー消去法の指針を与えるものである。 4.Cu・TCNQ樹脂分散膜とPVK・TeNF光導電体層からなる積層感光体において静電複写試験を行い、少なくとも一度の露光で50枚以上の複写が可能であることが分ったが、実用化へは像露光による光書き込み過程の高感度化が鍵となるものと考えている。
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