様々な有用生化学物質を工業規模で高純度に精製するには液体クロマトグラフィーが有用である。しかし、従来実験室規模で用いられていた構造のカラムを単にスケールアップしたのみでは充分な分離能が発揮されない。そこで本研究では大口径カラム中の液体の流動状態と分離度との関係に着目し、液出入口部の構造と圧力損失、充填ゲルの物理的特性、カラムの壁効果などがカラム性能に与える影響を検討し、その結果に基づいて高分離能を有する直径20cmの分取用液体クロマトグラフィーカラムを試作した。本研究で明らかとなった点は、 1)充填層上部の滞留液量を最小にし、かつ軸方向の流入液を水平方向に分散させる入口部構造が充填層内の均一な液流分布を得るのに適している。 2)1)のカラムに機械的強度の異る平均粒径約100μmのゲルを充填した場合、アガロースやセルロースなどの軟かいゲルは充填層自身の圧力損失が比較的高く、直径20cm程度のカラムでも均一な液流分布が得られやすい。しかし、機械的強度が高く層の圧力損失が低いシリカゲルなどの場合、入口分散板部の圧力損失を高く(液線速度50cm/hで0.05kg/【cm^2】以上)しないと液流分布が悪くなる。 3)タンパク質などの高分子の分離の場合は充填ゲル粒子内拡散抵抗が分離能低下の主因で液流分布の不均一性の影響は比較的少ない。 4)直径10cm以上のカラムに軟かいゲル粒子を充填した場合細いカラムに比べ圧密が著しくなるが、2.5cm程度の水力相当直径になるよう同心円状邪魔板を挿入すると細いカラムと同等に操作できる。 5)既述の結果に基づき直径20cmのカラムを試作し、細いカラムと同等の理論段数と分離能が得られることを確認した。 以上、種々の特性を有する充填ゲルに対して大口径液体クロマトグラフィーカラムの設計指針を明らかにした。
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