本研究は、チモフェービコムギのG型細胞貭の代りに、Aegilops kotschyiの【S^v】型細胞貭及びAe uniaristataの【M^u】型細胞貭を利用して、一代雑種小麦育成に役立つ雄性不稔・稔性回復系を開発することを目的としている。本年度は3つの研究を実施したが、その概要は以下のとおりである。 1.雄性不稔系統の育成:【S^v】型細胞貭をもつ雄性不稔系統の育成と、稔性回復遺伝子Rfvをもたない花粉の授精力に対するB型(パンコムギ細胞貭)及び【S^v】型細胞貭の影響を解析するため、次の2組の交雑を行い、次代の全固体について自殖種子稔性を調査した。 (1)〔(【S^v】)-Splt×CS〕【F_1】×〔(B)-Splt×CS〕【F_1】 (2)〔(【S^v】)-Splt〕×CS〕【F_1】×〔(【S^v】)-Splt×CS〕【F_1】(3)〔(【S^v】)-Splt×N26〕【F_1】×〔(B)-Splt×N26〕【F_1】 (4)〔(【S^v】)-Splt×N26〕【F_1】×〔(【S^v】)-Splt×N26〕【F_1】完全雄性不稔個体は交雑(1)と(2)からは14個体、(3)と(4)からは24個体得られた。また、Rfvをもたない花粉の授精力はB型細胞貭の存在下に比べ、【S^v】型細胞貭の存在下では1/7(品種Chinese Spring;CS)〜1/10(農林26号:N26)に低下した。【M^u】型細胞貭について同様な知見を得るための検定交雑も行った。 2.維持系統の育成:【S^v】、【M^u】両型細胞貭をもつ雄性不稔系統の増殖に必要な維持系統を得るため、Splt×CS及びSplt×N26の【F_2】集団から24個体を選び、(kotschyi)-Splt及び(uniaristata)-Spltの両方に検定交雑した。 3.【S^v】型細胞貭利用一代雑種の試作:ブルガリアのPanayotov博士とわれわれが共同開発した【S^v】型細胞貭をもつ雄性不稔系統"911"を用い、(911×CS)【F_1】×日本実用品種の3系交雑【F_1】を育成した。用いた品種は農林26号、50号、61号、エビス、オマセ、コケシ、ニチリン、ミクニである。これら8組合せの3系交雑【F_1】と両親及び標準品種を比較試験のため、現在、4回反復の試験区で栽植中である。これらの結果はすべて明年度得られる予定である。
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