ジャーファーメンタを用いてレクチン製造至適条件を検討し、32U/mlに及ぶレクチンが安定に生産されるようになった。また、培養液から硫安沈でん、P-aminobenzyl-1-thio-β-N-acetylglucosamine-Sephadex 4Bを用いるアフィニティクロマト法により、きわめて簡便にほぼ全活性を電気泳動的に単一の標品として回収出来た。本レクチンの製造に関する技術的な問題は全て解決された。 ヒト以外の霊長類26種、約200個体について検討した結果、本レクチンはオランウータン科チンパンジーの赤血球に凝集活性を示すことを見出した。その活性はヒトに対する場合の約1/100で、かつ個体によっては全く凝集されない。被凝集性が遺伝形質であるか否かは検討中である。なお、同科オランウータンの血球は凝集されなかったが、シロテテナガザル、アギルテナガザル血球はきわめて弱くではあるが凝集された。また、オナガザル科のシシオザル、オマキザル科のフサオマキザルもきわめて弱くだが凝集された。霊長類以外の哺乳類11種、鳥類3種、ハチュウ類4種、両生類3種、魚類5種の血球は全く凝集されなかった。かかる高度の特異性は、沈降反応を用いるテストにおいても全く同様であった。 人獣血痕鑑定実験において、本レクチンを用いる方法は、従来の免疫抗体を用いる方法に比べやや感度が低いが、対ヒト特異性がきわめて高いので、この目的に十分利用出来ると判断された。 ヒト赤血球上の本レクチン受容体は糖タンパクのBand 3であり、本レクチンはBand 3糖鎖のN-acetyl lactosamine構造ないしその非還元末端側と結合した。すなわち、高度にヒト特異的な構造が、この部分に存在すると結論された。 本レクチンは、未分化な赤血球系細胞、顆粒球系細胞と見なされる白血病細胞K562、KGla、HL-60と結合・凝集を示さなかった。
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