研究概要 |
我々は、先に、SHと反応して強い蛍光を発するN-(9-アクリジニル)マレイミド(NAM)(【III】)を開発した。同反応は、マレイミド環の二重結合に対するSHのマイケル型付加反応であり、よく似た性質を持つSeHへも応用が可能であることが予測された。本年度は、SeHとNAMの反応を検討し、発蛍光反応が起こることを明らかにし、更に、反応生成物の単離、構造決定を行い、定量分析への応用の可能性を明らかにした。モデル化合物として、ベンジルセレノール(【I】)、比較のためにベンジルチオール(【II】)を用い、同じ条件で反応を行った。(【I】),(【II】)は共に水に難溶なため、反応はアセトン中で行った。即ち、(【I】)のアセトン溶液をNAM-アセトン溶液に加え、室温で撹拌した。発蛍光反応は直ちに始まり、溶液は強い蛍光を発し、予想通りNAMとの反応が示唆された。蛍光は1時間以内に一定となり、その蛍光強度は(【I】)の農度にほぼ比例した。さらに、生体内でセレノール基を有するセレノシステインの分析への応用を行った。batch法では、10nmol/3.5ml〜10pmol/3.5mlの間で良好な直線性が得られた。HPLC法では、オンカラム量で、350pmol〜6pmolまで良好な直線性が得られ、検出限界は、0.75pmol/30mlであった。その類似体でNAMとも反応するシステインと良好に分離出来た。タンパク(オボアルブミン)にセレノシステインを添加し、0〜24時間加水分解処理をした結果、良好な回収率を得た。又、セレノシステインとNAMとの反応物の結晶を単離し、そのIR,NMR,MASSを測定し、その構造を決定した。その結果、同結晶は-SeH基にマイケル付加後、アミド結合のまき直しが起こり、いわゆるシステインの反応物のSをSeにかえた化合物であることが明らかとなった。又、Se-NAM付加物の蛍光スペクトルを測定し、360nmに励起の最大、又、420nmに蛍光極大が得られた。
|