研究概要 |
抗不整脈薬開発のためのスクリーニングには生体位心臓の不整脈モデルが重要な地位を占めているが、心室細動のような重篤な不整脈は不可逆なので、同一標本を用いることができず、抗不整脈薬の検出効率に難点がある。本研究は、イヌ摘出乳頭筋血液灌流標本に心筋のKコンダクタンスを増加する薬を投与することによって起こる心室細動が、果して、可逆的かつ再現性のある心室細動モデルとなり、抗不整脈薬の開発に用い得るかどうかを検討することを目的としている。 毎分120の頻度で駆動したイヌ摘出乳頭筋標本の栄養動脈には毎分約5mlの血流がある。この動脈に心筋のKコンダクタンスを増加させる冠血管拡張薬のニコランジルを持続注入すると、毎分0.3mgでは心室細動を発生しなかったが、1mgでは47%、3mgでは90%の頻度で心室細動を発生した。毎分1mgで心室細動を発生しない標本でも、受攻期に電気刺激を加えると90%以上に心室細動が起こった。一旦生じた心室細動はニコランジルの注入中持続し、注入時間に関係なく、注入中止後的4分で消失した。したがって、ニコランジル注入中にある薬を動脈内に単回投与し、心室細動が消失した場合はその薬の抗不整脈作用によると判定できる。ニコランジル1mg/分の注入で発生した心室細動は、チアミノピリジンやTEAのようなKコンダクタンスを減少させる物質で抑えられたほか、クラス【I】の抗不整脈薬のリドカイン,プロカインアミド,ジソピラミドで有効に抑えられ、その効力比はイヌ心室筋の速いナトリウムチャンネルを遮断する効力比に近かった。クラス【III】のアミオダロンは半数の標本にしか有効でなかった。 以上、可逆性,再現性,既知の抗不整脈薬の有効性から、ニコランジル持続注入によるイヌ摘出乳頭筋血液灌流標本の心室細動モデルは抗不整脈薬の開発に有用であると考えられる。
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