研究概要 |
クモ膜下出血(SAH)による脳血管攣縮は、しばしば致命的であるのみならず、生存時にも中枢神経系の機能障害を伴うことより、脳血管攣縮原因物質を同定し、その拮抗物質を明らかにすることは急務である。本実験では、ヒト、サルおよびイヌの摘出脳動脈条片を用い、その緊張変化を等尺性に記録した。経壁電気刺激には直径0.5mmの白金線双極電極を用い、20【H_z】,0.3msec,50Vで刺激した。脳脊髄液(CSF)標品としては、クモ膜下出血患者のCSFを凍結乾燥し、蒸留水で希釈し用いた。 SAH患者のCSFはヒト、サルおよびイヌ脳動脈いずれの標本にも収縮反応を惹起するが、イヌ脳動脈では反応はとくに著明であった。正常人のCSFによる反応は弱かった。サルおよびイヌ脳動脈における CSFの収縮反応は、サイクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するaspirin(5×【10^(-5)】M),PG拮抗薬polyphloretin phosphate(PPP)(3×【10^(-5)】g/ml)およびリポキシゲナーゼ阻害作用を有するcaffeic aoid(【10^(-5)】M)処置により著明に抑制されたが、【TXA_2】合成阻害剤OKY-046(5×【10^(-5)】M)処置では抑制されなかった。また、イヌ脳動脈の内皮細胞除去によりCSFの収縮反応は減弱した。一方、イヌ脳動脈の経壁電気刺激に対する一過収縮反応は、CSF処置により増強され、その増大反応は、 phentolamine(【10^(-5)】M)処置により抑制された。 以上の結果、SAH患者より得たCSFによるサルおよびイヌ脳動脈の収縮反応は、aspirinおよびPPPで抑制されることよりPG様物質の関与が示唆され、それが内皮細胞除去によっても抑制されることから、CSFによる収縮反応の一部は内皮細胞由来であることが示唆された。また、イヌ脳動脈の経壁電気刺激による収縮反応は、CSFで増大されphentolamineで抑制されることから、CSFはノルアドレナリンの反応性を増大させるか、またはその遊離を促進する可能性が示唆された。
|