研究概要 |
ヒトを含む動物細胞を無血清・無蛋白条件下で大量培養しうる実験方法を開発し、これらの細胞が産生する蛋白質を同定したり、分離精製を行い医学領域に応用することを目的として実験を行った。無血清無蛋白培地としてハムF-12培地にアミノ酸やビタミンを添加した改変培地を工夫し、この培地によってヒトを含む多くの細胞株を開発してきた。マウス線維芽細胞株(m),細網細胞株(MR,SP),ヒト線維肉腫細胞株(HT1080-SF2),ヒト悪性奇形腫株(HMT-SF1),ヒト腎癌由来株,ヒト肝癌由来株,マウス肺癌由来株,等の10種類以上の細胞株を上記無蛋白培地で増殖させ、培地中に産生される蛋白質の同定や分離精製を行った。マウス線維芽細胞株(m)から既に報告したフィブロネクチンの産生をみとめた他に、この細胞株はトランスフェリンを異所性産生していることも見出され、その分離精製や抗血清による免疫組織化学的検索を行い膜受容体との結合を螢光抗体法で調べた。ヒト由来線維肉腫細胞株(HT1080-SF2)の亜株はヒトフィブロネクチンを産生している他に単鎖ウロキナーゼを産生していることを見出し、ヌードマウスへの移植により、癌の転移と関連することを報告した。ヒト肝癌からフィブロネクチンの産生されていることも確認された。他方、フィブロネクチンと同株の細胞接着蛋白質をヒト血清中より分離精製すると共に、この蛋白質に対するモノクローナル抗体を作成し免疫組織化学的検索により、正常肝膵等の上皮性細胞から産生されていることを見出し、また、この蛋白質は肝硬変症でその産生が亢進しているが、肝癌ではその産生がみられないことも明らかにした。 以上の知見は、細胞が無血清培養条件下で種々の蛋白質を産生していることを示しており細胞の機能を検索する上で極めて興味ある研究と考える。また、このような無蛋白培養法の医学・薬学領域への応用が可能であることを示している。
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