機能的残気量と死腔量は換気条件に最も重要なパラメータであるが、特殊な測定装置を必要とするために一般肺機能検査の項目で測定されることは無い。特に全身麻酔あるいは人工呼吸器の管理下に置かれている患者の気道回路は安全のために半閉鎖回路や非再呼吸回路が用いられ、既存の閉鎖回路を用いたこれらの肺機能測定法を人工呼吸下で利用することが出来ない。本研究はこのような環境下でも機能的残気量および死腔量を同時に測定できる非再呼吸回路による肺機能測定法を開発したので報告する。本測定装置の測定原理は本質的には窒素洗い入れ法と呼べる。しかし従来のこの方法は呼気窒素濃度と呼吸流量を求め、逐次積分して機能的残気量を算出する方法である。この方法は原理的には単純で良いが流量と呼吸ガス濃度との同期を正確に取ることは困難である。われわれは逆に人工呼吸下である利点を利用してコンピュータ駆動で正確に換気できるレスピレータを開発し、換気回数を一定に保ち一回換気量を変更する方法で呼吸ガス濃度のみの測定を行った。換気モデルは従来より提唱されている連続流モデルと換気のたびに肺胞容量が一回換気量の分だけ変動する離散モデルを組み立て、解析を試みた。成人10人の肺機能正常者の術中測定の結果、連続流モデルの解析法は死腔量を少なく、逆に肺胞容量を大きく算出した。しかし、われわれが考案した離散モデルでは正確な死腔量と肺胞容量を求めることが出来た。レスピレータの駆動、データサンプリング、そして回帰曲線を求めるカーブフィティングを一台のマイクロコンピュータで作動させることは困難であるために、現在は手術室のディジタル通信回路を用いて分散処理を行う方法で計算処理とデータ記録を行っている。
|