研究概要 |
本年度は先ず、前年度にひき続きデータ収集に力をいれ、各種疾患発生数データとして横浜市に於ける喘息発作患者、東京都に於ける麻疹,水痘,インフルエンザ様疾患,急性耳下腺炎,その他計約20種の週毎のデータ(1981-1986年)を収集した。また、自然環境要因のデータとして横浜市大気汚染物質濃度データ(NO,【NO_2】,【NO_X】,【SO_2】,SPM),交通量,横浜市及び東京都における気象データ(気温,湿度,気圧,水蒸気圧,日照時間,雨量,風向,風速,等)等(1981-1986年)を収集した。そして、各データのデータベースを東大大型センター、および法政大学計算機センターの各施設の計算機内に構築し、種々の解析のための基本データファイルとした。 収集されたデータの基本的性質を調べるため、自己相関関数,相互相関関数,自己パワースペクトル密度,相互パワースペクトル密度等を計算した。この結果、ある疾患受診者数と環境因子との間の特別な位相関係を示唆する結果も得られた。また、各疾患における患者発生数の予測の問題は興味深い。予測方法として先ず考えられるのが過去の患者発生数の時間的推移から最適予測フィルタを設計することである。さらにその疾患の過去の情報だけでなく他の疾患の発生数の情報あるいは各環境因子の過去の時間的推移の情報も利用した予測法も考えられる。現在このような多次元予測理論による解析も試みつつある。 さらに、各疾患の時系列のスペクトルが刻々どのように変化するかを調べるいわゆる非定常解析も重要であるが、現在利用可能な非定常解析法は見あたらない。そこで我々は確率過程の自由度という概念を提案し、それから導かれる時系列の時変スペクトル帯域解析の新しい理論を開発中である。この理論の完成と疫学データへの応用は、来年の興味ある課題としたい。
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