CLINICAL PHARMACOKINETICSの基本理念は個々の患者に対する安全な薬物療法の達成にある。近年の薬物血中濃度モニタリングの普及は本理念に沿うものであるが、測定データを有効に活用するためには、標準となるべき薬物動態パラメータが整備されていなければならない。本研究では、日本人における薬物動態標準値の推定と個別投与設計システムの開発を目標として、以下の検討を行った。 1.臨床上得られる血中濃度データをPOPULATION PHARMACOKINETICSの手法を用いて解析することにより、薬物動態パラメータの平均値と分散を推定し、ベイズ理論による個別投与設計法の母集団標準値とした。VALPROIC ACID、THEOPHYLLINE、LIDOCAINE、PROPRANOLOL等を用いた検討の結果、この個別投与設計システムは一点の血中濃度データからでも各患者の体内動態パラメータ及び血中濃度推移を予測することが可能であり、臨床上有意義であると認められた。 2.その予測精度は欧米の文献値を用いるよりも本研究で求められた標準値を用いたときのほうが良く、日本人における標準動態値を設定する価値は十分にあると考えられた。 3.ベイズ理論を応用した薬物動態推定プログラムは、実用性を考慮してパーソナルコンピュータ用に開発し、医療の場において容易に使用できるようにした。 4.患者の病態的要因あるいは生理的要因によって体内動態が影響を受ける場合、各種要因によって層別化された母集団平均値を設定する必要があった。例えば、THEOPHYLLINEにおける検討では、肝疾患を併発した患者群ではクリアランスが有意に低下しており、肝機能の正常な患者群とは別の母集団標準値を設定する必要性が認められた。
|