研究概要 |
本邦における虚血性心疾患による死亡率は年々増加しており、虚血性心不全すなわち冠不全に対する有効適切な治療薬,予防薬の開発はすでに国家的課題になっている。従来、製薬企業における冠不全治療薬の開発は麻酔動物-主として犬-を用い、麻酔下急性実験において冠血行に及ぼす候補物質の薬理学的性質が検討され開発が行われて来た。しかし麻酔動物の心臓血管機能は麻酔薬によって副交感神経の緊張が喪失した状態となっているため、緊張性拮抗性二重支配の原理から交感神経緊張の状態となり、正常状態と比較すると心拍数は2倍以上、血圧は高血圧状態になっており、生理学的状態から著しく逸脱した特殊な状態であることが明らかになった。またこの状態では薬物の経口投与が出来ないために、全てが静脈内投与に頼っているため、臨床的には経口投与される薬物の効果を正確に検定できない欠陥が指摘されている。本研究は無麻酔無拘束下の正常犬で冠不全治療薬の効果検定を可能とする実験方法を確立し、それをシステム化し能率的な効果検定を完全な条件下で行い、開発段階の早期から薬効の予見性を飛躍的に向上させることを目的に企画された。すなわち各薬物の臨床応用と同一経路,多くは経口投与或いは舌下投与,適用をはじめて可能とした。冠拡張薬は従来、主として冠血行の測定を主眼にした検定が行われたが、本研究によって冠血行とともに心外膜を走行する太い冠血管径の同時測定が可能となった、これは冠不全に太い血管の重要性がやっと理解されてきたことによるが、そのほか、左室内径、左室圧、dp/dt、中心静脈圧、心博出量、心電図、その他の血管径、臓器厚さなど十数項目の循環パラメーターの連続測定記録、データー収録・処理が可能となった。今後本システムの活用により、虚血性心疾患の治療薬開発の方向性、治療原理が明らかにされ、本疾患の予防治療に威力を発揮するものと考えられる。
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