本年は3ケ年計画の初年次にあたるので、飼育法ならびに野外採苗法の確立、野外における分布状況などの調査、マーカーにすべき形質の検討に重点を置いて研究するとともに、各地で独立に継代飼育を試み、次のような成果を得た。 1.本研究の主眼である継代については、第2代個体での卵・精子の形成が確認されながら斃死してしまい、3代目を得るには至らなかった。死滅の原因を探る為に、水質(pH、比重、窒素量、リン酸量等)の変化を詳細に検討するとともに、各地で継代に努力中である。 2.餌料としては浮游硅藻Chaetoceros gracilisが最適であることが判明し、当初予定していたTetraselmis、市販人工飼料は補助的に用いることにした。 3.関東周辺の海域につき分布状況などを重点的に調査し、新たに良好な採取場所を発見した。又、各地での情報収集、現地調査などにより、それぞれの海域で、採集・採苗の適地を見出すとともに人工魚礁について検討した。 4.自然状態での放卵・放精のパターンを把握し、卵・精子の人為的誘導のための光条件についても一応の結論を得た。 5.血管系・鰓を中心に、形態上の地域差について検討を開始した。 6.一個体から得たDNAを制限酵素で処理後、電気泳動することによって明瞭なバンドを得ることができた。この方法を個体差、地域差などの検討に応用することを開始した。H-2遺伝子に対するプローブを用いた実験については結論を得るには至らなかった。 班員間の情報交換の為、各班員の得た成果・情報等を班長の下に集約・整理し「Ciona通信」と銘打ち、既に5度班員に配布すると共に2回の班会議で各々の研究を批判・討論した。また飼育装置等の備品は予定通り購入し、継代飼育・形態研究・データ解析等に活用している。
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