近年の目覚しい遺伝子操作技術の発展にともない、蛋白、ペプチド性の有用物質の生産に組換えDNA操作による大量生産が現実化されてきている。その際、生産量、産生蛋白の安定性、有害物質の混入といった観点から産生蛋白を細胞外へ分泌蓄積させる方が有利である。本研究の目的は、この問題に対し、大腸菌を宿主として新しい効率の良い分泌ベクターを開発することにある。具体的には大腸菌の外膜に存在する唯一の酵素蛋白であるDR-ホスホリパーゼAのシグナル配列を利用し、以下の様に成果が得られている。 1. 分泌に必要な遺伝子領域に関する基礎的研究-試験管内突然変異導入法により、DR-ホスホリパーゼA遺伝子(pld A)のシグナル配列のN末端から、3番目、4番目のアミノ酸の間に新たにスレオニン残基が挿入されるよう三塩基対導入した変異プラスミドを調製した。その遺伝子産物である変異酵素は、正常酵素同様、内膜を透過し外膜に局在していたが、酵素活性は正常の1/3しかなかった。この変異酵素も正常にプロセシングされており、蛋白合成量そのものが低下していることが予想された。すなわち、このN末端近くの配列が、正常な蛋白合成分泌に不可欠であることが示唆された。 2. 分泌ベクターの調製-ベクタープラスミドpBR322上にpld A遺伝子のプロモーター及びシグナル配列部分のみをクローニングできた。次に、シグナル配列の直後に種々の制限酵素切断点を有する合成ヌクレオチドを導入し、引き続いて、pld A遺伝子由来の転写終止信号部分を連結したプラスミドpPLD202を作成した。以上、分泌ベクターの条件を兼ね備えたプラスミドを調製することができた。 3. 抗体の作成-精製DR-ホスホリパーゼAに対する抗体を調製することができ、この酵素のプロセシング機構を解析する準備が整った。
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