近頃脚光を浴びている非晶質合金は、ランダムな構造に基因する興味深い多くの特性を有している。その一つに耐放射線性がある。乱れた構造がより乱されてもそれらの性質に変化が見られなければ、放射線環境下で使用されるものとして非常に有望である。事実数少い照射実験ではあるが、その可能性が確実視されるに到っている。現在まで当研究室においては、不活性雰囲気下で溶融急冷ができるローラスクイズ急冷装置により非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金をつくっており、その合金に対し熱中性子および【He^+】の照射実験を行なって、この非晶質合金が放射線に対しても安定であることを確かめている。 そこで60年度においては、液体チッ素温度で照射粒子として【H^+】を選び、東京工業大学のバンデグラフ加速器により3MeVに加速した【H^+】を2.5×【10^(17)】p/【cm^2】(0.049dpa)まで照射し、照射前と照射後の非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金について広角X線回折(Wide Angle X-ray Scattering)と小角X線散乱(Small Angel X-ray Scattering)による構造解析を行なったところ、【H^+】の2.5×【10^(17)】p/【cm^2】までの照射量では、動径分布曲線に大きな変化は見られなかった。このことは非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金の短範囲(数Å程度)並びに中範囲(20Å程度)にわたり照射前と照射後について構造に変化がなく、構造上照射に対して安定であることを示したといえる。 つづいて当研究室で改良したE-DEP-2計算機コードを用い、3MeV【H^+】が、非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金中にどれだけ入り、はじき出しをおこしたかを計算したところ、表面では1×【10^(-19)】dpa/ion/【cm^2】、深さ30μのところで1×【10^(-18)】dpa/ion/【cm^2】の最大値を示した。これらの値は【He^+】の3MeVを当てたときの表面での値1×【10^(-18)】dpa/ion/【cm^2】、深さ5μでの2×【10^(-17)】dpa/ion/【cm^2】の最大値に比べ、小さい値を示すものの、最大のはじき出しをおこす深さは【H^+】の場合かなり深くまで【H^+】が入っていることがわかる。
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