本装置の特徴は顕微鏡光学系により、一つの細胞の特定の小領域(0.25μm程度の空間分解)に焦点をあて、その領域に時間分解螢光法を適用して分子レベルでの情報を得ることである。細胞をすりつぶしたり可溶化することなく、また電子顕微鏡観察に必要な固定・包埋などの処理をともなわず、生きた細胞の動的挙動を知ることができる。本研究ではまずNd;YAGレーザー励起とシンクロスキャンストリークカメラによる時間分解光検出法を用いて、データ積算時間を飛躍的に短縮することを目的とした。 本年度の装置自体に関する研究実施状況は以下の通りである。1)レーザーと螢光顕微鏡とのインターフェイス、2)螢光顕微鏡とスペクトログラフ・ストリークカメラとのインターフェイス、3)レーザーとシンクロスキャンストリークカメラの同期調節、特にカメラの同期周波数を従来のものより遅くし、4MHz及び20MHzでも作動するようにしたこと、4)ストリークカメラと解析用コンピュータとのインターフェイス、5)通常のキュベットで時間分解ルミネセンス測定を行なうための試料室の製作。 一方、装置をテストするための試料としてウシ及びタコの感光色素膜蛋白質のロドプシンを精製し、ダンシルスルホニルクロリド、リサミンローダミンスルホニルクロリド等で螢光ラベルを行なった後、再構成膜を調製し、既設の螢光光度計を用いて時間分解法の基礎となるデータを集積した。また赤血球膜のアニオン輸送チャンネルのバンド3をリン光色素でラベルし、通常のキュベット中で回転拡散を測定することにより、顕微鏡下での測定の基礎固めを行った。また細胞膜上の特定の蛋白質を特異的に螢光ラベルする方法として免疫抗体のFab'の特定のシステイン残基をラベルする方法を開発した。
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