研究概要 |
放射線により試験管内形質転換したヒトセンイ芽細胞(CT-1)では、c-mycの発現が顕著に上昇していた。 この細胞のc-myc遺伝子をクローン化し、構造を調べたが正常c-mycと同じであった。 CT-1細胞c-myc遺伝子のSmqIEcoRI断片をSV40またはマウスメタロチオネイン遺伝子の転写プロモーターに結合して発現可能なmyc組換体を作製した(pSV2CT-myc,pMKCTmyc)。-ネオマイシン耐性遺伝子と共に種々の培養細胞に導入し、細胞形質の変化を検討した。 まずBalb/3T3細胞では、V-hasのみで低い頻度の形質転換が誘起されるが、pSV2CTmycを同時に導入すると形質転換の頻度が約5倍上昇し、形質転換細胞の形態がV-hasだけの場合とくらべ著しく紡錘形となった。 しかし、mycだけでは形質転換しなかった。 従ってc-mycの高発現はhasの機能と共役して細胞に作用し、恐らく細胞骨格のなかの微小管構造を変化させると考えられた。 次に、マウス上皮細胞JB6,ラット上皮様細胞208Fおよびヒトセンイ芽細胞にpSV2CTmycを導入し、myc発現によるこれらの細胞の形質発現を検討した。 JB6 KMST-6では導入したmycの発現は見られたが、細胞形態は対照と全く差が認められなかった。 しかし、208Fに導入した場合、mycの発現が高いクローンでは細胞形態の変化(上皮様から紡錘形)が見られた。 抗アクチン抗体を用いた蛍光抗体法により、mycの発現は細胞骨格のミクロフィラメントの重合を変化させることが示された。 さらに、208F細胞は上皮細胞増殖因子(EGF)により軟寒天内コロニーが形成されるがmycを導入したクローンではこのEGFに対する反応性が消失していた。 この消失の機構は不明だが、少なくとも受容体の変化ではなく、刺激伝達系の変化と思われる。 以上の変化とmyc発現との相関を直接的に証明するには発現量を調節するベクターを用いる必要がある。 メタロチオネインプロモーターは効果が弱いことが判明した。
|