研究概要 |
悪性リンパ腫患者より確立されたManca cell lineではmyc遺伝子座のある第8番染色体と免疫グロブリンH鎖遺伝子座のある第14番染色体との間の相互転座が観察され、このためmyc遺伝子がH鎖遺伝子のエンハンサーによりBリンパ球内で活性化されている。このmyc遺伝子の活性化がBリンパ球の腫瘍化に働いているのかどうか、そうだとするとそれのみで腫瘍化させうるのかどうかを検討するために、C57BL/6マウスの受精卵にこの活性化myc遺伝子を導入した。現在迄に10匹のトランスジェニックマウスを得た。全例が生後6週間頃に発症し、経過を追ったものについては生後8〜15週間頃に死亡した。発症時点ではマウスにより腫大しているリンパ節の部位が異なること、しかしいずれにおいても脾腫,貧血,凝固時間の延長が認められた。また剖検するとほぼ全例胸腺の腫大も認められた。組織学的な検索ではヒトの悪性リンパ腫に類似の像であった。この腫瘍細胞をin vitroの培養系に移した所どの部位のものでも容易に増殖させることができた。まさにこの培養した細胞をC57BL/6マウスに注射した所100%に近い確率でリンパ腫を形成した。したがって極めて悪性度の高い細胞であると考えられた。腫瘍細胞よりDNAを抽出し、サザン法にて解析した所、コントロールとして用いた肝臓のDNAと同じ位のコピー数及びパターンを示し、更なる再構成は生じていないと考えられた。またこのDNAを用いてマウスの免疫グロブリンの再構成をみたところ再構した数本のバンドのみが検出された。この事は腫瘍細胞が単一クローンであることを示し、myc以外の癌遺伝子の関与が示唆された。腫瘍細胞は現在の所種々の抗体を用いた解析結果からはpreB細胞であると考えられた。現在C57BL/6以外の純系例えばC3H等にも同じ遺伝子を導入し、遺伝的背景が発症に影響を及ぼすかどうかを検討する予定である。
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