AIDSウイルス(HIV)をHTLV-I陽性細胞株である、MT-4に感染するとHIV抗原の出現(蛍光抗体法)に引き続いて、細胞DNA合成し【^3H】-チミジン取込法)が低下し、これに少しおくれて細胞生残率(トリパンブルー排除法)も低下がみられた。この結果は、MOIが0.006という低ウイルス量の時と、MOI10という高ウイルス量の時で本質的な差はみられなかった。一方、蛋白合成(【^(14)C】-アミノ酸取込法)は、DNA合成に比して、その抑制は、かなりおくれて出現することが判った。以上の時間的経過から、HIV抗原合成に引き続いて起こるDNA合成の抑制がその後の細胞死へ至る重要なステップと思われた。次にHIVによる細胞変性と、IL-2レセプターの発現との関係を検討した。IL-2レセプターの発現はウイルス感染後、同様に次第に抑制されてくる。しかしその経過は、全蛋白合成の抑制とよく一致していた。HTLV-I陽性細胞では、IL-2レセプターの異常発現が示唆されており、この現象が、ATLの発症メカニズムを説明するものとして注目されているが、今回の実験に関する限り、HIVが、IL-2レセプターの発現を、特異的に抑制して細胞死を誘導しているという証拠は、得られなかった。 【Mol_4】-4細胞に、HTLV-【II】遺伝子をトランスフェクションする実験では、pH6-neo.HTLV-【II】プラスミッドDNAを用いているが、完全なHTLV-【II】DNAを持ったMolt-4細胞が、いまだに取れていない。デリーションしたDNAを含んだ細胞は取れるが、これに対し、HIVを感染してウイルスに対する感受性や、細胞変性などを、対照のMolt-4細胞と比較検討中である。
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