研究概要 |
都市排水の処理やバイオリアクターの下流処理に膜プロセスを利用しようとするとき、膜の有機物汚染が深刻な問題となる。膜表面にタンパク質などを主とする有機物が付着しゲル層を形成するために、透過性の低下や選択性の変化などの障害が起こるためである。そこで有機汚染ができるだけ起こり難い膜プロセスの開発と汚染の起こり難い膜素材の探索を行った。ドナン透析法は膜をへだてる濃度拡散によりイオンの交換透析を行う方法であるが、本研究で新たに開発した方法は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配列しドナン透析を行うプロセスで、このとき陽イオンと陰イオンの流れが局所的な循環電流を形成し、イオン移動が加速される。さらに原液相と陽イオン交換膜,陰イオン交換膜をへだててそれぞれ酸,アルカリを供給すると原液相で起こる中和反応によって駆動されて、非常に高度の脱塩が起こることが確められ、またグルコースなど中性溶質の透過はほとんど認められず、有機非電解質を含む排液の脱塩などに有効に利用できることが確認された。 膜の有機汚染ではとくにタンパク質の吸着と変性による不可逆的付着が問題となる。この場合、膜素材の電荷および親疎水性がとくに大きい影響を与えると考えられ、一般に正電荷をもち疎水性の強い材料ほど汚染をうけやすい。そこで汚染に強い陰イオン交換膜の探索を企てた。タンパク質あるいは細胞と適切な相互作用をもつ材料設計として、水和層を形成できるジヒドロキシエチルアミノ基を導入したポリアミノ酸膜の合成を行い、この膜の物質透過性を檢討した。またこの膜と細胞との相互作用の程度を調べたところ、ジヒドロキシエチルアミノ基はその3級アミノ基により細胞をひきつけるが、水酸基のまわりの水和層により細胞の変性,変形伸長が抑制されることが認められ、とくに親水性アミノ酸残基が40〜50%のとき、最も良好な膜特性を与えることが確められた。
|