筆者らは1985年4月より愛媛県の石手川源流部で二つの小集水域(伐採跡地と造林地)を選び、10日に一度ずつ渓流水の水質分析を行うとともに、6月からは量水堰と雨量計を設置して、水収支を測定してきた。また、集水域に多数のテンショメーターを埋設して、1週間に一度の割合で土壌の水分状態を検討してきた。本研究費の補助のもとに、本年度は、この調査を続行することに加えて、前年のテンショメーターの測定結果から見出された水みちに、簡単な取水設備をほどこし、6月の梅雨期から、渓流水の分析に合わせて水質分析を行った。以上の調査より次の結果が得られた。 1.降水量と渓流水の流量に著しい季節的変化がみられ、それに対応して渓流水の成分濃度にも季節的変化が認められた。特に、流量(対数)と成分濃度(対数)に直線関係がみられ、その勾配が季節的に正と負の逆転を示した。この直線関係は最も高濃度で流出するカルシウムイオンで顕著に認められたが、硝酸イオンでは伐採跡地でのみ認められ、造林地では冬季を除くとみられなかった。硫酸イオンにおいては、濃度変化が小さいことにより、有意な直線関係が認められなかった。 2.上記の直線関係の中でも、特に夏季の大量の地下水流出に際してカルシウムイオンと硝酸イオンとで勾配が逆転する現象に着目して、その原因の検討を試みた。即ち、水みち近傍の土壌及び離れた地点の土壌を採取して、実験室内で渓流水と接触させて土壌と水の平衡状態を検討するとともに、そこに炭酸ガスを吹き込んだ場合の影響を検討した。その結果、カルシウム・硝酸両イオンの流出時の挙動の違いに、両イオンが土壌粒子と土壌間隙水との間で分配されるにあたって、炭酸ガスが影響する程度に差異のあることが関与すると推定された。その差異は水みち近傍の土壌において顕著であり、今後の検討課題である。
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