放射線に対して液体が強いのは、その乱れた構造に基因しているからであり、固体でも乱れた構造を有している非晶質合金は耐放射線材料として注目され始めている。われわれは早くからこの点を強く意識し、核融合炉構造材料のクラッド材としての適性を広い観点から種々検討して来た。それらのなかで、特に核融合炉の燃料であり、しかも環境に漏洩すると人体に対して悪影響を及ぼすトリチウムと非晶質合金の係り合いにつき研究することは、燃料経済の面からも、また安全性の面からも重要である。 具体的には非晶質合金中のトリチウムの透過について調べたが、測定原理としてはリチウムを含む非晶質合金を原子炉で照射し、生成するトリチウムの非晶質合金中からの放出速度をシンチレーションカウンターにより測定することから非晶質合金中のトリチウムの拡散係数を求めるものである。実験に用いた含リチウム非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金は、まず非晶質【Pd_(80)】【Si_(20)】合金にLiHを3at.%になるように加え、真空中で加熱・溶製するとともに、既存の不活性ガス雰囲気中で操作できるローラスクイズ装置により合金を急冷し、非晶質【(Pd_(80)Si_(20))_(97)】【Li_3】合金をつくった。実験に先立ち、このようにしてつくられた非晶質【(Pd_(80)Si_(20))_(97)】【Li_3】合金中のリチウムが均一に分布されている否かを確めるためSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometer)により深さ方向の分布をとってみた。なおエッチング深さと、実際の深さとの対応をつけるため末エッチングとエッチング部分の段差をWYKO社製TOPO-2D型非接触表面アラサ計で測定した。その結果1μmの深さまでリチウムは均一に分布していることがわかった。つづいて中性子照射により生じたトリチウムの放射速度を既存のトリチウム放出実験装置により測定したところ、非晶質【(Pd_(80)Si_(20))_(97)】【Li_3】合金中のトリチウムの拡散係数は、水素や重水素の拡散係数に比べて小さいことがわかった。
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