研究概要 |
筋収縮の本質は, ATP存在下でのミオシンとアクチンの相互作用にある. 筋収縮機構の分子レベルでの解明の為には, アクチンーミオシンのシステムの機能部位を明らかとし, それらの収縮中の動きを追跡する必要がある. 我々は既に, アクチン/ミオシンの接触部位を提唱した. これはケンブリッジグループなどの説とは異なるが, 我々のモデルの正しさが国際的に認められ, 決着がついた. もう一つのミオシン分子の重要な機能部位であるATP結合部位の三次元的所在を, 自主開発した分子標識法とクルーグらが開発した三次元再構成法とを組み合わせて決定した(Nature(1987)329,635-638). ATP結合部位は, エネルギーの注入口であり, 収縮時の分子変形とも関わる. ATP結合部位はミオシン頭部の先端から約7nm離れ, アクチン結合部位の反対側にあり, 互いに約4nm離れていた. ミオシンのアクチン結合能とATP結合能とは互いに影響し合うが, その相互作用はアロステリック的である事を直接的に結論できた. 我々はミオシン分子頭部内の折れ曲がり部位の存在を指摘してきたが, ATPはここに結合しており, 極めて興味深く, 今後の研究の方向を示唆する. ミオシンには, 反応性システイン(SHI)があり, ATP分解及びアクチンの結合に深く関連している. その三次元的所在は, ATP結合部位とは反対側にありアクチン結合部位とは隣接して存在していることが判明した. 部位特異的(Site directed)抗体を用い, ミオシンN末端, トリプシン切断部位(JI,J2)の免疫電子顕微鏡的な部位決定に成功した. 筋収縮の分子レベルでの解明の為に, 更に詳細な構造決定を達成したい. 既に金原子11個のクラスターを標識し, クライオン電顕法により無染色標本の撮影に成功している. この方法は, 動的反応をミリ秒毎に観察できるので, 此の方向へも研究を進めつつある.
|