研究概要 |
1.アルキル化剤に対する大腸菌の適応応答の分子的機構を明らかにするため、その過程で中心的な役割を果しているAda蛋白の機能を中心に研究した。クローニングしたada遺伝子を用いてAda蛋白を大量につくらせ、それからAda蛋白を均一に精製し、それがメチル化されたDNAからメチル基をAda蛋白を転移するメチルトランスフェラーゼ活性をもつこと、Ada蛋白がada遺伝子およびalkA遺伝子の転写促進を行うこと、メチル化されたAda蛋白は非メチル化蛋白に比べてada遺伝子を転写する活性がはるかに高いことを明らかにした。ついでAda蛋白のメチル受容部位と思われるアミノ酸残基を人工変異導入法によって他のアミノ酸に置換し、Cys-69およびCys-321がそれぞれメチルホスホトリエステルおよび【O^6】-メチルグアニンからのメチル受容部位であること、前者のメチル転移が転写促進に、後者のメチル転移が突然変異誘起と致死作用の抑制に効いていることを示した。さらにada遺伝子の転写調節領域のヌクレオチドを変化させたミュータントDNAライブラリーを作製し、どの塩基配列が転写調節にかかわっているかを明らかにした。 2.自然突然変異の制御におけるDNA複製酵素の役割を明確にするため、大腸菌のDNAポリメラーゼのεサブユニットの構造遺伝子dnaQと強いミューテーター活性を示すその変異型の遺伝子(mutD5,dnaQ49)の塩基配列を決定し、複製の精度維持に必要な部位を明らかにした。 3.アルキル化剤に感受性のヒト培養細胞にクローン化したada遺伝子を移入してその発現をみた。移入した遺伝子の量に応じてメチルトランスフェラーゼ活性が上昇し、またアルキル化剤に対する低抗性も増加した。この結果はヒトの細胞でも同様な酵素が遺伝情報の維持において重要な役割を果していることを示している。
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