研究概要 |
アルキル化剤は強い突然変異誘起作用, 発がん作用をもっているが, これはアルキル化剤によってDNAにできたアルキル化塩基によっておこると考えられる. 生物はそのそのようなアルキル化塩基をDNAからとり除く機構をもっているが, 特に大腸菌などの細菌ではそのような修復酵素が微量のアルキル化剤の前処理によって誘導されることが明らかにされている. その誘導にはada遺伝子の産物であるAdaタンパクが中心的な役割を演じていることを前年度の研究で明らかにしたが, 本年度はさらにその分子機構について詳しく解析した. Adaタンパクは2つのメチル受容部位をもつがN端側のCys^<69>はメチルホスホトリエステルから, C端のCys^<321>は0^6メチルグアニンおよび0^4メチルチミンからそれぞれメチル基をうけとり, そのうちCys^<69>のメチル化がAdaタンパクの転写調節因子としての活性化に直接かかわっていることが明らかになった. メチル化されたAdaタンパクはada遺伝子のプロモーター領域に結合して転写を活性化するが, 種々の欠失および塩基置換を導入して解析した結果, 転写開始点より約50塩上流に位置する8塩基より成る配列AAAGCGCがada遺伝子の発現に必須なことがわかった. この領域に結合したAdaタンパクとそれより下流の-35領或に結合するRNAポリメラーゼの間に物理的なコンタクトがあることを示唆するデータも得られた. Adaタンパクと類似のメチルトランスフェラーゼの活性は他の細菌や哺乳動物の細胞にも存在する. ヒトのがん細胞にはこの活性を欠くものが存在するが, そのような細胞にクローン化した大腸菌のada遺伝子を移入することによりアルキル化剤に対する抵抗性が上昇することを示した. このとき0^6メチルグアニンを修復するC端側の半分だけで回復がおこったので, この塩基の修復が致死および突然変異の誘起と関係すると結論した.
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