DNAの遺伝情報がいかにして安定に維持され、それが次代の細胞へ伝えられるか、その機構を分子レベルで明らかにするため、その機構に異常を持つミュータントを分離し、その遺伝子の産物を同定して研究を進めた。まず自然突然異変の制御機構を明かにするため、正常よりも著しく自然突然変異率の上昇したミューテーターを用いて研究をおこなった。大腸菌のミューテーターのうちmutT変異はAT→GCトランジション変異を特異的にひきおこすことが知られている。この遺伝子をクローニングし、その産物である分子量15.000のタンパク質を分離し、それがdGTPase活性をもつことを明らかにした。DNAポリメラーゼコア酵素は正確な塩基対合に基づいてD.NA合成をすることが知られているが、それでも一定の低い率でい型鎖のAのところにGを誤って取り込むが、このような誤りは反応系にMutTタンパクを加えることによってほぼ完全に抑えられた。このタンパクはdGTPの特殊な異性体(たとえばsyn型)を選択的に分解することによってこのような効果を示すのではないかと考えられる。 誘導突然変異に関しては昨年度にひき続いてAdaタンパクを中心に研究を進めた。ada遺伝子の発現は微量のアルキル化剤処理によって誘導されるが、ada遺伝子のプロモーターに変異を導入することによって、この転写促進に必要な配列を同定した。フットプリンティングによる解析の結果、メチル化されたAdaタンパクは先ず-50付近に存在する特有の配列(ada配列)に結合し、それによってその下流の-35および-10配列を含む領域にRNAポリメラーゼが結合することが明かとなった。同様なメチルトランスフェラーゼはヒトを含む哺乳動物の細胞にも存在しており、その遺伝子をクローニングするため、発現ベクターを用いて実験を行った。cDNAライブラリーの移入によってこの酵素を大量に生産する株が得られた。
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