研究概要 |
酵母(Saccharomyces cerevisiae)において、ヘテロタリック株(一倍体)から接合能を持たず、胞子形成能を持つ株が生じた。この株の胞子を単培養したところ、接合能を持たず、胞子形成能を持つクローンになった。そして、この形質は後代に安定に伝えられた。つまり、この株は生活史の変異株である。この株の生活史はいわゆるホモタリズムと類似しているので、HO遺伝子によるホモタリズム(HOホモタリズム)と区別するために、sdi(self diploidization)ホモタリズムと名づけた。sdiホモタリズムは、【P^+】因子を必要とすることと劣性であるという点でHOホモタリズムとは異なっている。また、sdiホモタリズムに関与している染色体遺伝子のうち,sdi1とsdi2は互いに連鎖しており、それらが第【IV】番染色体右腕にあるhom2およびlys4に連鎖していることが明らかになった。また、sdi3については第区番染色左腕のhis5に連鎖していることが判った。従って、これらの遺伝子はいずれもHOホモタリズムに関与している遺伝子とは異なっている。また、HOホモタリズムでは、接合型遺伝子の切り出しと再結合によって細胞の接合型の転換が起こることが知られている(カセット説)。つまり、HOホモタリック株はDNAの結合に必須であるRAD52に欠損があれば致死になる。ところが、sdiホモタリック株はrad52変異があっても致死にならない。このことは、sdiホモタリズムにはDNAの切断が伴っていないことを示唆している。現在、sdiホモタリズムにおける二倍体化の機構は不明であるが、sdi2の近くにsir4があることから、sdi2とsir4とが同じ遺伝子である可能性もある。この点については、今後の研究によって解明していく必要がある。
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