研究概要 |
1.B型肝炎ウィルス遺伝子導入マウスの作成とそれによる解析:昨年度クローニングにより得たヒト肝癌に組み込まれたHBVの中より、stem and loop構造を取りうるinverted repeatのある5.4kbのBamH1切出しのHBV分子を選びC3Hマウスの卵に注入し、現在までに5匹の遺伝子導入マウスを作成した。この中3匹のマウスについて解析が進んでいるが、2匹では最初の分子の一部が断片として組み込まれており、【F_1】・【F_2】でも組込状態は変わらない。これに反し、他の一匹では、最初のunit size が保持されたまま導入されていたが、意外なことに、【F_1】では3/24(12.5%)・【F_2】では12/65(18%)にHBV分子の再編成が起っていた。現在この変化の生じるメカニズムについて検討する一方、これらのトランスジェニックマウスを繁やし、自然肝発癌および化学物質による肝発癌におよぼすHBV組み込みの効果を経過観察中である。なお導入HBV遺伝子の発現は、現在までの検索では把握されない。 2.ウッドチャックとウッドチャック肝炎ウィルス系を用いる解析:WHV(-)のウッドチャックを多数購入し、AAF,DEN,アフラトキシン等の肝癌原物質を投与したが、この動物はこれらの癌原物質に対し非感受性であることが判った。1年余りの観察では、明らかな癌は未だ誘導されない。しかし、前癌性病変は少数発生しておりり、この細胞を培養に移すことにより、肝細胞の持続的培養系WLC-3を確立することができた。この細胞は電顕的にオルガネラが多く、G-6-Pの活性やアルブミン産生があり、分化した肝細胞の形質を保持している。染色体数は、正常と同じ38かその倍数である。ヌードマウスには移殖が困難である。WHVの関与しない肝細胞の樹立は世界で初めてであるが、今後この細胞系を用いて、WHVの増殖や遺伝子の発現、更にウィルス組み込みと癌化のメカニスム等の問題へのアプローチに活用する予定である。
|