1.硫黄化合物の酸化:スルホキシドの光学活性体はそのキラリティを炭素上に移すことができるので不斉合成上非常に有用である。その観点から有機資源の有効利用の研究を考えるとき重要な研究課題である。我々は本研究でホルムアルデヒドジチオアセタール及びβ-オキンスルフィドの微生物酸化を試み、いずれも光学純度の高いスルホキシドが得られることを明らかにした。ホルムアルデヒドジチオアセタールを細菌の一種コリネバクテリウム・エクィ(C.egui)の増殖期に加えると酸化される。その際の酸化され易さは硫黄に結合している炭化水素基の構造に強く支配されることが明らかとなった。得られるスルホキシド体はNMRやCDスペクトルからRの立体配置を有することが確認された。β-ベンゼンスルフェニルエタノール誘導体もこの微生物によって酸化され、光学活性スルホキシドを生成した。エチルエーテル、アリルエーテル等がその例である。遊離のアルコールは全く酸化されないこととは好対照であり、特に注目すべきは酢酸エステルからもスルホキシドが生成し、培養条件下で加水分解されて遊離のアルコールとなった。これは客易にアルデヒドに誘導できる。 2.α-ベンジルオキシカルボン酸エステルの不斉水解:C.eguiがスルフィニル酢酸エステルを不斉水解することに着目し、上記エステルに応用するとα位の絶対立体配置によって加水分解速度が著しく異なり、反応時間を選ぶと光学的にほぼ純粋なエステルが回収された。一般的にはS体が回収される。べンジル基は酸、塩基に強く有用な保護基であるが、本反応によりカルボン酸を化学的に酸化して保護基を導入した後に不斉炭素を導入することができるようになり、意義深いと考える。本反応により保護基導入の際の塩基による他の不斉点のエピメリ化の恐れがなくなり、合成化学的に有用である。
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