単結晶ターゲットにチャネリング条件で入射した高速イオンビームはシャドゥイング効果のため表面近傍の原子しか電離することができない。すなわちチャネリング入射条件では均一で薄いターゲットによる測定と等価な結果を得ることができる。この現象を利用してオージェ電子の固体内阻止能の決定を行った。さらに従来不明であった現象、すなわちチャネリング条件での2次電子連続スペクトルの変化についてシャドウイング効果特有の規則性を見出し、表面領域の新しい研究手段としての2次電子分折の可能性を示した。具体的な実績の内容は次のとうりである。 1.低速電子の阻止能決定 本年度は酸化マグネシウム(MgO)の単結晶を用い、MgのKオージェ電子の阻止能値を2.1eV/【A!゜】を決定した。また測定技術の点から、MgOのような絶縁物に対して高速イオンが有利であることが判明した。すなわち高速イオンは飛程が長いため、飛程程度に薄い試料を用いればビームのチャージアップを避けることができる。その他重要な進歩として、オージェ電子の多重散乱による脱出軌道の変化を解析モデルにとり入れ阻止能決定法をより正確なものとした。 2.連続スペクトルの変化 従来チャネリング条件で2次電子が減少することは知られていたが、通常のスペクトロメータではエネルギー分析が困難であったため研究が進まなかった。我々は独自の低バックグランドスペクトロメーターにより、チャネリング入射における2次電子発生の抑制はシャドウイング効果による表面ターゲット原子数の実質的な減少に起因することが明らかになった。
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