準安定励起原子及び低速イオンと表面の間の電荷移動・交換メカニズムを、その相互作用の結果放出される電子を分光する立場から究明することが本研究の目的であった。本年度は、まず高性能ヘリウム準安定原子銃を製作し、更にSi(111)表面での【He^*】準安定原子の脱励起メカニズムの解明、及びアルカリ原子吸着の進行に伴う脱励起メカニズムの転換を調べた。 1.飛行時間型準安定原子銃の製作: Heをパルス放電で励起し、【He^*】と同時に生成される真空紫外光(21.2eV)を、両者の飛行時間の差により分離した。【He^*】の速度分布はほゞマックスウェル則に従った。これにより、準安定原子脱励起分光と光電子分光のスペクトルの、同一表面・同時測定を可能にした。 2.Si(111)清浄表面での【He^*】→【He^+】→【He^0】の過程: この清浄表面から得たスペクトルにより、【He^*】はまず表面との間の共鳴トンネルによってイオン化され、更にオージェ電子を出して中性化されることが分った。スペクトルの最大エネルギー値から、オージェ中性化の起きる位置が推定された(表面より約2【A!°】離れた位置)。 3.アルカリ金属吸着による電荷移動機構の変化: Si(111)7×7表面にLi原子を吸着させると仕事関数Φが大きく低下する。Siの露出している位置に接近した【He^*】は、|ΔΦ|【<!〜】1eVの領域では、上と同じ共鳴イオン化+オージェ中性化機構で脱励起された。一方、Liの吸着した位置に接近した【He^*】は、吸着初期から、直接オージェ脱励起された。この事実から、脱励起過程は【He^*】の感じる局所的仕事関数に支配されることが判明した。また、この方法によりアルカリ吸着種の上の部分的に占有された局所荷電状態も明らかにされた。
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