研究概要 |
金属中の水素の拡散機構を調べるには、まず結晶中での水素の状態、特にその格子位置を知る必要がある。そのためにはイオンビームを用いたチャネリング法が非常に有効である。従来重水素については多くの実験がなされているが、水素に対しては同じ方法が適用出来ないので行われていなかった。我々は最近【^(11)B】ビームを用いた【^1H】 【^(11)B】,α)ααの核反応とチャネリング法を組合わせた方法で実験を試み、その有効性を明らかにした。この方法を用いて本年度は次の研究を行った。 1.タンタル中の水素の状態 Ta【H_(0.07)】につき室温(α相)で格子位置の決定を行い、水素は格子間四面体位置(T-サイド)を占めることを明らかにした。さらに試料を200Kに冷却しβ相を析出させ、次いで373Kに加熱してβ相を再固溶させ、室温で再度格子位置決定を行った。その結果、格子位置はやはりT-サイトであった。この熱処理によりチャネリングディップは浅くなり、バナジウム中の場合と同様に歪が入ったものと考えられる。既になされたバナジウムに関する同様の実験ではディップの浅くなる程度はタンタルの場合よりも小さいにもかゝわらず、水素はT-サイトからずれたdisplaced-Tまたは4T状態といられるものに変化した。この結果から、タンタル中の水素の状態はバナジウム中ほど歪に敏感ではないと考えられる。これは4T状態とT状態とのエネルギー差に関する計算結果と定性的に一致する。 2.ニオブ-モリブデン合金中の水素の状態 Nb中にMoを加えると固溶限が増大することが知られている。Nb【Mo_(0.03)】合金中の水素につき、その格子位置を調らべた。室温では水素はT-サイトとは異った位置を占める。373Kで測定するとT-サイトを占めることから、水素は室温でMoに捕えられていると考えられる。
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