[目的] 神経網膜には高いCキナーゼ活性が存在し、その酵素学的緒性質(【Ca^(2+)】やフォスファチジルセリン等の基質のキネティクス)や発癌プロモーターであるTPAによる活性化の機構なども脳内の酵素と同様である。そこで本酵素の神経網膜における役割、時に初期過程における意義を探る目的で神経伝達物質であるドーパミンの分泌放出に及ぼす、TPAその他のCキナーゼ賦活剤の影響を検索した。 [結果] 1.単離網膜神経細胞分画 網膜をパパイン酵素処理し、神経細胞をバラバラにし、メトリザマイド(10/15%)密度勾配法にて遠心分離し、比較的大きな細胞体分画(恐らく水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞からなる)を小さな細胞体分画(視細胞や双極細胞からなる)から分離採取した。この細胞分画中にドーパミン性アマクリン細胞の存在は螢光組織化学法にて同定した。 2.TPAによるドーパミン分泌放出の促進 上記のドーパミン細胞を含む単離網膜神経細胞分画(【10^6】cells)に【^3H】-ドーパミンを取り込ませた後、5×【10^9】MのTPAを灌流液中に添加し、放出される放射性ドーパミンの量をカウントした。TPAにより有意のドーパミンの放出(40%)がおこり、その最小有効濃度は【10^(-10)】Mと低濃度で、【10^(-7)】Mを最大約2倍の放出が促進された。他方発癌プロモーター作用のないフォルボールでは【10^(-7)】Mでもドーパミン放出は惹起できなかった。TPAの放出促進は【H_7】や外液の【Ca^(2+)】を除去すると完全にブロックされた。 [考察] 以上の事実から網膜ドーパミン細胞からのドーパミンの放出にCキナーゼが何らかの調節をしていることが明らかとなった。現在その内在性基質や【Ca^(2+)】の動員の機構について生化学的実験を押し進めている。
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