ラウス肉腫ウイルスのsrc遺伝子産物(p【60^(sπ)】)は、チロシン残基に特異的なタンパク質リン酸化酵素の活性を持っており、カルシウム結合タンパク質であるカルモデュリンのチロシン残基をリン酸化する。このリン酸化反応がカルモデュリンの構造と機能にどのような影響を与えるかを解析し、以下の結果を得た。 1)リン酸化反応はカルシウムによって顕著に阻害され、EGTAを加えることによって促進された。 2)リン酸化は2残基あるチロシンのうち、カルシウム結合第3ドメイン内にある、チロシン99に優先的に起っていた。 3)リン酸化を受けたカルモデュリンは、カルシウム存在下でのSDSゲル電気泳動において、リン酸化を受けていないものに比べて遅く泳動したが、EGTA存在下では易動度はほぼ同じであった。 4)EGTA存在下の非SDSゲル電気泳動において、易動度の異なるいくつかのカルモデュリンバリアントが見出され、これらは相互に変換可能であることから構造異性体である可能性が考えられた。 5)これらのバリアントの内、最も遅く泳動するものが最もよいp【60^(sπ)】の基質となった。 これらの結果から、チロシンリン酸化を受けたカルモデュリンとカルシウムとの複合体の構造は変化していると結論されたが、それによる機能変化の有無を明らかにするには、リン酸化カルモデュリンとリン酸化を受けていないカルモデュリンバリアントとを有効に分離する必要があり、今後の課題として残された。
|