サツマイモ塊根の全可溶性タンパク質の約80%は、塊根以外の他の器官には殆ど存在しない分子量2万の貯蔵タンパク質スポラミンで占められる。スポラミンの2種の型AおよびBに対応する全鎖長cDNAクローンの塩基配列の比較から、両者が約80%の相同性を示すことを明らかにした。次いでこの両cDNAをプローブとして、更に49個のスポラミン全鎖長cDNAクローンを各種の方法で分類することによって、それらがスポラミンAあるいはBのいずれかのサブファミリーに分類され、いずれのサブファミリーにも6種以上の構造の異なる遺伝子が存在することが分り、染色体上でのスポラミン遺伝子の重複が強く示唆された。サブファミリー内での相同性は、サブファミリー間のそれに比べ極めて高く、この2つのサブファミリーへの分岐はスポラミン多重遺伝子族の進化の初期に起こったと推定された。5種類のスポラミン遺伝子の構造の比較から、スポラミン多重遺伝子族のメンバー間での構造変化は、酵素遺伝子の進化に伴う構造変化とは異なる特徴を示した。特に、その翻訳領域中ではアミノ酸の置換を伴う塩基置換の比率が極めて高く、こうした貯蔵タンパク質では一定の許容範囲内で多重遺伝子族メンバー間のアミノ酸組成をランダム化するような機構が働いている可能性が示唆された。また、両サブファミリーのmRNAではその非翻訳領域にみられる構造の違いから、形成しうる分子内2次構造が異なり、それによって両者の翻訳効率や、細胞内安定性の違いがもたらされる可能性が示唆された。cDNAをプローブとしてスポラミンAおよびBの核遺伝子クローンを同定し、スポラミンA核遺伝子の一つについて、その全塩基配列を決定した。この遺伝子にはイントロンが存在せず、推定転写開始点上流には典型的なTATAおよびCAAT配列に加えて、動物ウイルスのエンハンサー配列と相同性を示す配列が存在した。
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